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EXHIBITION ⁄ 展覧会・イベント

2000/08/25 - 2000/09/30
ジュン・グエン・ハツシバ 個展「2001年のシクロ〜もうひとつの歴史」

ジュン・グエン-ハツシバは本年の韓国・第3回光州ビエンナーレにも出展、ベトナムを代表するアーティストとして国際的に注目されています。(尚、彼の作品を含む光州ビエンナーレの一部は新潟と栃木の美術館に巡回いたします。)

ジュン・グエン-ハツシバは日本人の母とベトナム人の父の元に1968年日本で生まれました。ベトナム戦争の頃には家族で南ベトナムに住んでおり、実際彼の身内にボートピープルとなった人もいるなど波乱の生活を余儀なくされました。戦争を機にアメリカに移住し美術大学を卒業、現在はベトナムで制作活動を行っています。ベトナム人であり、日本人でありながら、アメリカ国籍を持ち、英語を母国語とする彼は何処に行っても異邦人になってしまうという宿命の元で、自分のアイデンティティを追求するかのようなインスタレーションを作品を制作しています。
本展覧会「2001年のシクロ」は、ベトナム独特の人力車タクシー“シクロ”を題材に、ベトナムの現代社会の現状を描き出そうという試みです。 展覧会場には、アーティストによって新しくデザインされた2001年モデルのニューシクロと広告ポスターなどが展示され、自動車のショールームのように華々しく新型シクロが紹介されます。
しかし、サブタイトルの「〜もうひとつの歴史」が示すように、これはあくまでアーティストの作りだした架空の物語にすぎません。現実のベトナム社会でシクロは国家の近代化の邪魔者扱いです。自動車やバイクが普及するにつれ人力のシクロは交通の妨げとなり、ついにベトナム政府はシクロの新規生産を禁止し、「シクロ進入禁止」の立て札のある道路も多くなっています。近年めざましい経済的成長を遂げ、急激に近代化がすすむベトナムで多くの人々が豊かになっていく一方、低所得の労働者であるシクロの運転手達はその恩恵に預かる事もなく厳しい生活をおくっているのが現状です。
これまでもジュン・グエン-ハツシバは、社会の中の少数派や、排除され、忘れられがちな人々や物事を作品の題材に取り上げてきました。社会の中の弱者にも存在意義を見い出し、作品の中でクローズアップすることで、現実の社会の実情や問題点を浮き彫りにしています。今回の“シクロ”のシリーズでは、現実とは全く逆の架空の物語を作り上げることで、シクロの運転手達が社会で置かれている現状を強調し、大きな歴史のうねりの中で振るい落とされていく個人を拾い出そうとしています。また彼は現実と歴史を十分観察し考察した上で、「もし…だったら」という歴史の可能性を示そうとしているのです。それはそのまま、もしベトナムで生活することを選ばなかったら、もし日本かアメリカに住んでいたなら、もしベトナム戦争がなかったらなどという、アーティスト自身の運命の可能性にもつながっているのかもしれません。

本展はリアルタイムのベトナムの素顔にふれる絶好の機会であるとともに、インターナショナルに活躍中の作家の旬の作品を鑑賞できる興味深いものになりそうです。