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山本竜基 展 「私 心 景」(TOKYO)

2008年11月26日(水) - 2009年01月17日(土)

2008年11月26日より、ミヅマ・アクションにて山本竜基の2年ぶり2度目の個展「私 心 景」を開催いたします。


山本竜基は1976年三重県生まれ、写真と見まがう細密な描写で独特のおかしみ溢れる自画像を描き続けている作家です。自らの作品を「スーパープライベート主義絵画」と称する山本は、社会や生活の中での疑問や発見を絵画化する上での変換装置として、多く自画像を用いています。それは時に数百人にも及ぶ群像であったり、天衝く巨人であったりと多様な表現を見せてくれますが、「私 心 景」と題された今回の展覧会、「山本の心の中の景色」に映るのは・・・はたして山本が勢揃いとなっております。


たとえば街中でひとり歩く人たちの無表情や渋面にどきりとする機会はしばしばありますが、数分後に彼らと同じ表情で歩いている自分に気付く機会はあまりありません。「無題(背中)」という作品において耳をふさぎ体を丸めてうずくまる何人もの裸の山本たちを見ていると、こうした私たちの姿を思い起こすかもしれません。鉛筆一本で描かれた強いコントラストと厳しい批評性は、その後おしりを出した山本により絶妙に緩和され、最終的にシンプルな構図として圧倒的な印象を残します。また母の女学生時代の写真が自ら恋焦がれた人に瓜ふたつだった事実に衝撃を受け生まれた「おかんと共に」では、若かりし笑顔の母の傍らに能面的表情をした自分を寄り添わせた、山本的アニマ論ともいえる大作です。


山本はこのように、設定した状況に演者を放り込み観客に物語と笑いを導く一流の構成作家でありますし、また同時に自らがそのすべての演者でもあります。漫画家をめざし、笑いが生活に根ざした関西文化の影響が山本の素地を培ったのでしょうか。憧れた手塚治虫と慣れ親しんだ吉本的笑いは彼の作品の上で密やかに溶け合っているのです。また山本が理想の絵画について用いる「1コマ絵画」という表現は絵画の力を強く信じている証明でもあります。1枚の絵に凝縮された物語や笑いは年々進化し強度を増していますが、その強度は自画像という手法とも強く結びついています。他者というリアリティの無いキャラクターを記号化して使うことよりも、自分の中に認められる性質をそのまま用いることにより生じる力が山本の作品に純度と説得力を付与しています。山本の自画像に見られる不安や痛み・傲慢・戸惑い・無関心などはすべて山本が自己の内に認めたものであり、だからこそ観客は自身の内にも同様の感覚を見出した時、山本個人の「私 心 景」と一体化することが出来るのです。そのため山本の自画像は「スーパープライベート主義」でありながらも普遍性という強さを持っているのです。


作品から受ける奇天烈な印象に反して、山本の描く自画像は現代に生きる私たちと近く感じられることと思います。