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ジュン・グエン=ハツシバ展「Thank you ありがとう Cam on」(TOKYO)

2010年07月28日(水) - 09月08日(水)

この度ミヅマアートギャラリーに於きましてジュン・グエン=ハツシバによる3年ぶりの個展「Thank you ありがとう Cam on」を開催いたします。


 


ハツシバは1968年東京にて日本人の母とベトナム人の父の間に生まれ、幼少時代を日本で過ごした後、アメリカで教育を受け、現在はベトナム・ホーチミン市で制作活動を行っています。2001年から発表している難民や社会的少数派をテーマに取り上げた “メモリアルプロジェクト”シリーズで広く知られています。


 


今回の展覧会は、ジュン・グエン=ハツシバの人生の中でもとても大切な人物である亡き父親への感謝の意を込め、芸術家としての創造力と精神性を成熟させてくれた父親との関係をテーマにした展覧会です。またハツシバが継続的に追求し、理解しようとしてきた“メモリアルプロジェクト“の一環であり、ベトナム・日本・アメリカという複数の国境を「ネゴシエーター(交渉人)」のような生活を共にしてきた人生の記憶でもあります。


 


「私のキャリアは、生涯芸術家の道を歩むと父親と約束したことから始まりました。私の父は、他の子どもたちのように、一人息子である私が、法律家や、エンジニアや、医者といった将来を約束された職業に就くことを望んでいましたが、私がそうならなかったことにためらいを感じていました。だからこの父との約束を果たすべく一生懸命努力しました。


 


父が私の芸術家としての仕事を見てきたように、私も国境を行き来する彼の人生を見つめてきました。私の将来を知ろうとする父の努力と私が父の過去を取り戻したいという願いが、二人を強く結び付けていました。


 


この展覧会は、芸術を創造する勇気を与えてくれた父に対する愛情を込めています。それは、ほかでもない『ありがとう』という感謝の気持ちなのです。」


 


まず『The Sun and the Star』『The Star and the Stars』という2つの旗の作品が並びます。  


 


The Sun and the Star 太陽と星』とは、片面に「(日の丸の)太陽」、もう片面に「(ベトナム国旗の)金星」があり、それらが背中合わせに1つの旗を構成します。地球に最も近い星(恒星)である太陽と夜に見ることのできる星は、私たちの想像を超えた距離に存在し、本質的には同じものでも、私たちの住む小宇宙の世界では、各々は全く異なる物体として認識されます。日本とベトナムという地理的距離も、異なる国としての認識も、太陽と星というとてつもない銀河の距離も、1枚の布の表裏という層にまで縮まります。


もう1つの作品『The Star and the Stars 星と星々』は、アメリカの星々がもう片方のベトナムの星へ移動してひとつの旗を形成し、アメリカの経験がベトナムの経験へと形を変えます。


様々な視点から、この2つの旗の作品は3つの異なる国々の空気を共有してきた父と子のポートレートとなります。  


 


A Picnic under the Sugar Palm and the Bodhi Tree 椰子の木と菩提樹の下でピクニックを』は、粘土と土でできた巨大な壁のインスタレーションで、地中で2つの木の根が絡み合っている姿を表しています。これは、ベトナムとカンボジアの国境南端でみられる植物からインスピレーションを受けた作品です。このインスタレーションでは、鑑賞者に、人間社会から遠く離れた場所(地中)を下から見上げることで、国境という概念を再考させます。私たちのすべてではありませんが、多くの祖先のルーツは、想像もつかないほど多様に国境を越え、混ざり合っています。  


 


Breathing is Free: 12,756.3 – Chicago Microscope (A Self-portrait), 88.5km』は、ハツシバが父との約束を果たした作品と言えます。これは、『Breathing is Free: 12,756.3』という現在も進行中の大規模なプロジェクト(地球の直径の距離を走るという長期プロジェクト)の一環として制作されたリアプロジェクションのビデオ作品で、彼がアーティストとしてのキャリアを歩み始めたシカゴという場所を間近で見ることができます。あの道の角にあったコーヒーショップはまだあるだろうか?などと記憶の断片を集めて、過去に住んでいた場所の意味を知ろうとするのは、人間の特質です。思い出深い場所には再びじっくりと訪れたくなるもので、我々の記憶は過去を再発見していく中で、より強まっていくのです。このプロジェクトはシカゴ美術館附属美術大学の卒業生として展覧会の招待を受け、再びシカゴを訪れることになり実現しました。  


 


ギャラリー中央の床には、ハツシバが亡き父にささげる記念碑的作品『January 8, 1940 – September 8, 2009 and Onwards 1940年8月8日-2009年9月8日、その後』という作品が展示されています。床に倒れた7mのフラッグポールが植木鉢に植えられたフラッグポールの苗木に囲まれています。フラッグポールの苗木はハツシバが丁寧に時間をかけて移植しました。我々が掲げる旗というのは自分が誰なのか、国籍や所属先を位置づけるものであるけれども、ハツシバは、私たちが育むべきものは旗そのものではなくフラッグポールの方ではないかと信じています。旗というのはまるで花が咲くように、フラッグポールを一生懸命育てれば、どの国旗にもない素晴らしい色や形を作り出すことができるのではないでしょうか。それぞれの旗は、たった一つしかない個性的なものとなるはずです。そして旗という概念が廃れた時、その時に、私たちは平和に椰子の木と菩提樹の下でピクニックができるのではないでしょうか。  


 


この展覧会は彼の亡き父のちょうど一周忌にあたる9月8日に閉幕します。


 


http://www.breathingisfree.net/