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森淳一展「trinitite」(TOKYO)

2011年11月24日(木) - 12月24日(土)

2011年11月24日(木)よりミヅマアートギャラリーにて、森淳一の初個展「trinitite」を開催いたします。


森淳一は1965年長崎県生まれ、1996年に東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了、現在は同大学の准教授を務めながら、日々制作に取り組んでいます。これまでに、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた水や泡、髪の毛の素描をもとに、大理石や柘植(つげ)の木を用いて制作した一連のシリーズを発表してきました。

素材を驚異的なまでに彫りこむことで生まれる、光と影の隙間で微かに存在しているかのようなその繊細さと緊張感は、森の作品に美しさと同時に、ある種の異様とも言える存在感を与えています。

昨年の東京都現代美術館でのグループ展「MOTアニュアル2010」や今年開催された「ジパング」展など、作品を展示する度に注目を集めている彫刻家です。


今回展覧会のタイトルとなった「trinitite(トリニタイト)」とは、1945年にアメリカで行われた人類初の核実験、トリニティ実験の際に生成された人工鉱物の名称を指します。この実験で使用された爆弾と同系のものが同年、長崎に投下されました。

長崎に生まれ育った森にとって、原爆は決して歴史の中の事件ではなく、目を逸らすことのできない現実として常に彼の傍らに影のように存在し、影響を与えてきました。

これまでにも森は原爆をテーマにした作品を制作してきましたが、今回のミヅマでの初個展を機に、改めて正面からこのテーマに向き合うことにしました。今回は木彫だけでなく、セラミックや写真、平面作品と様々なアプローチから原爆の手触りを手に入れ、体感しようと試みています。


今回の展覧会の機軸ともいえる作品<trinity>は、森がこれまでに発表した木彫作品の中で最も大きな作品となります。

森はある写真集の表紙に写されていた三位一体像に惹かれ、この作品を制作するに至りました。

胴体内部は、外見の重厚で威厳のある佇まいからは想像し得ないほどの軽さに至るまで彫られ、また、繊細に彫り抜かれた顔の内部は光と影が交錯し、モチーフとなった三位一体像とは異なる新たな表情を与えられています。その猛々しくも繊細な姿は、新たな“イコン”のようにもとられるのではないかと思います。


黒色のセラミックで制作されたマリアの顔像<shadow>は、長崎の浦上教会に残る「被爆マリア」がモチーフとなっています。眼の部分は「被爆マリア」同様の姿にくりぬかれ、黒く光るセラミックの表面とは別の暗闇を私たちに提示しています。その暗闇の中を覗き込むとき、その暗い空(くう)の中に、原爆が一瞬にして奪い取った歴史の重みを見出さずにはいられません。

奇しくも私たちはまた同じ空の中に立たされています。森の作品が持つ繊細さと尊厳さは私たちが今後あるべき姿を提示していると言えるのではないでしょうか。


森はこういいます。自分の作品もまたトリニティ実験によって生成された「trinitite」であると。

森淳一の身体と、被爆都市で生まれ育った記憶を通過し生成された本展をぜひともご高覧くださいますようお願い申し上げます。