天明屋尚「韻」展(TOKYO)
2012年10月10日(水) - 11月10日(土)
今回、天明屋は乱世の不穏な空気漂う合戦図の大作に挑みます。現代の侍を彷彿とさせる黒髪の侠達が変わり兜を纏った異相の馬と虎に跨がり、絡み合い闘う群像劇の壮麗さは間違いなく今展の見所の一つです。しかし会場ではさらに、来場者が自身の眼を疑うようなある仕掛けが施されています。一見、鑑賞者の眼力を試すかのようにも取れるその趣向はしかし、芸術作品を取り巻く視線や制度に鋭い批判の眼差しを向けています。合戦図の中の火種は、思わぬ形で私達の認識の中に飛び火して来ることでしょう。
天明屋尚は、2000年に日本伝統絵画を現代に転生させる独自の絵画表現「ネオ日本画」を標榜し、権威主義的な美術体制に対して絵で闘う流派「武闘派」を旗揚げ。2010年には南北朝期の婆娑羅、戦国末期の傾奇者といった、華美(過美)で覇格(破格)な美の系譜を“BASARA”として提唱。最近では、美術の制度に一石を投じるべく、コマーシャル・ギャラリーをプロデュースするなど、これまで一貫して反骨精神に根差した活動を続けて来ました。確信犯的なタブー侵犯を含んだ今回の展示は、まさに過美にして破格の“BASARA”の精神を体現するものと言えるでしょう。
また今展では作家初となる大規模なインスタレーションも設置。合戦図と同じ「韻」をタイトルに持つこのインスタレーションは、合戦図と対を成す補完関係にあり、現実と虚構の境界を揺さぶるメタフィジカルな視線はここでも顕在です。そこには、安全神話が崩壊してしまった3.11以後の世界における確かなリアリティが刻印されており、鑑賞者は現実世界が次第に蝕まれてゆく不気味な足音すら感じるかもしれません。
会心の問題作となることを予感させる今展。複雑に絡み合い、幾重にも張り巡らされた天明屋の仕掛けた罠をどう受け止め、どう読み解くか。ぜひともご高覧下さい。