野田幸江展「きれいな場所」(TOKYO)
2024年11月20日(水) - 12月21日(土)
「きれいな場所」 野田幸江
「ちょっとも涼しいならへんなあ」ここ数年の決まった会話の出だし。
ガンガン照りの空き地で、雑草の間のプランターにリアトリスの花が咲いていた。
近所のおじいさんが死んで、しきたりの通りに送られていく。犬の散歩。夕暮れに涼む外国人労働者。
秋風。ジョギングする人のポロシャツの蛍光オレンジと、セイタカアワダチソウ。
足もとで何かを殺しながら、生まれている。
ここは何かの一部で、ただ過ぎていく早さの中で、壮大な事と小さな事は同時に起こっている。
離れられないものと、届かないもの。くり返しの風景の中で、あらゆる出来事が淡々とある場所を思って。
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ミヅマアートギャラリーでは2024年11月20日(水)より野田幸江展「きれいな場所」を開催致します。
野田幸江(b.1978、滋賀)は画家として絵画制作の傍ら、家業である花屋「ハナノエン」で植物に携わるようになりました。日常にある植物に触れ、風景についての創作を行っており、自然の要素を配置する空間的な表現や、営みから生まれる植物作品、庭づくりなどを含めて、循環するモノの感触を探り続けています。Artists’ Fair Kyoto 2021 Akatsuki Art Awardでは最優秀賞を受賞。今秋竣工するTODA BUILDING(京橋)のパブリックアートプログラムに参加するなど注目を集めています。
中目黒にあったミヅマ・アクションで野田の個展「もう一つの世界-喜多利邸再現-」が開催されたのは19年前の2005年。虚飾や表面性を剥ぎ取られ露わにされた人間や社会の滑稽さと痛み、世界とその中にある命の美しさが、神話や寓話を思わせる絵画作品とインスタレーションで表現され強い印象を残しました。
数年後、しばらく制作から離れていた野田が新たに描きはじめたのは、それまでの寓話的な匿名性や記号性から一転し、確かに自分の目の前にある景色でした。絵画的な切り抜きや構図、刺激的な演出から距離を置き、淡々と描かれた鈍い光。網膜がどこかで映したことがあるような記憶の中の光景。作品から感じられる儚い生の苦味と存在への慈しみは、野田にとって最も身近に見続けている景色である花の貌にも同様に柔らかく内包されています。
会場の床にゴロンと置かれた石のようなオブジェも野田が長年制作し続けているもののひとつで、野山や道端で採った植物の種子や綿毛を凝縮し、土や糸などと共に固めて作られます。琥珀の中の小さな命のように、その結晶化した土壌は、確かな重みと微かな未来への可能性を内に秘め眠り続けます。会期中は空間に置かれた水や土のかたまり、足を踏み入れた人の動きも含めて、それぞれの現象が関係性を持って流れていく場所となります。