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山口藍 展 「きゆ」(TOKYO)

2010年02月10日(水) - 03月13日(土)

山口藍は江戸時代の風俗を下敷きに創作した、「とうげのお茶や」で遊女として暮らす女の子たちの姿を、独特の支持体を用い、繊細で明解な描線と色面で表現しています。


 


本展は18枚の壁面で室内空間を形成する組立式壁画「百の花、雪はふりつゝ」を中心に、パネルを毛布と綿布でくるんだ“ふとんキャンバス”では過去最大サイズの大作と、最小サイズの作品とで構成されます。


 


「きゆ」=「消ゆ」と題された今回は、「消える」という事象の変化の中からイメージをすくい取る形で制作が行われました。溶けてなくなる雪、燃え尽きる炎・・・そしてミヅマアートギャラリー新スペースのある飯田橋界隈がかつて海辺であったことから、消えてしまった水面。山口はそうした「消失」という現象とその裏にある「存在」を意識して描いています。


キャンバス作品の形の元になっているのは、あらわれては消え、形を結んだと思った瞬間に再び消えてしまう、お香から立ちのぼる煙の一瞬の形です。それは春にたなびく霞や、飯田橋の海面からわく水蒸気がまるで蜃気楼のように見えるイメージにも重なります。


 


常に流動的で不定形なものの瞬間を形にすることは、消えたはずの存在をかえって印象強く浮き立たせます。煙の中の女の子たちもまた、姿を現したと思ったらすぐに見えなくなるものとして描かれていますが、それはフラッシュのように焼きつき、私たちの記憶に深く刻まれることでしょう。


 


存在と消失は繰り返され、プラスとマイナス、あるいはポジティブとネガティブの両極が暗喩されることによって、作品の表層だけではなく、もっと心の深いところには消えない美しさが残るということに気づいてほしいという山口の願いが込められています。


 


また、「きゆ」に隠されたもうひとつのテーマは「ゆき」です。組立式壁画には雪が降り、積もった雪の上を歩くような静謐さを空間全体で表現します。


 


鑑賞者に物語を想起させるような山口の作品は、日本が長く培ってきた文化や慣習、そこから生まれてきた模様や形などに山口独自の解釈を与えることにより、新しくかつ幾重にも重なりあった意味を持って展開されます。


 


山口ならではの物語や意味の並列が織り成す本展を是非ご高覧ください。