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山本竜基 展(TOKYO)

2011年01月26日(水) - 02月26日(土)

2011年1月26日より、ミヅマアートギャラリー(市谷田町)にて山本竜基の2年ぶり3度目の個展を開催いたします。ポーラ美術振興財団の助成により、展覧会後には中国北京へと渡る山本が放つ渾身の大作にぜひご注目ください。


精細な描写で徹底して自画像を描き続ける山本が本展で挑むのは、地獄図です。題材は山本の出身地三重を中心に多く伝わり、かつて熊野比丘尼たちが絵解きをして全国をまわったという「熊野観心十界図」。百を優に超える山本の様々な自画像が、巨大なキャンバスを埋め尽くします。


人生の全て、そして死後の世界の縮図として描かれた十界図。死後におちる様々な地獄はそれぞれ現世の因果として絵解きされます。一枚の絵を見ることで死後の世界を疑似体験した観客は、現実の生活において各自の生き方を律することになりました。このように、本来十界図は広範な市民を対象にした多分に教訓的な絵画でした。しかし今作にて獄卒に責め苛まれる死者たちは、隅々まで皆山本の自画像ばかりとなっています。一般性を保つため匿名的であるべき死者を描くには、自画像は本来内省的で限定的なもののはずです。それにもかかわらず、私たちが不思議と山本たちの姿に自己を投影できるのはなぜでしょうか。


山本の描く自画像は今回、自画像でありながら独自性を持たない、ある種の記号のように映ります。困惑しつつも状況を素直に受け入れ、苦悶や悔悟の色もなく、どこかとぼけた山本たちの表情。私たちはいつしか同じ顔をした山本たちの判別をやめ、その状況や動きから何かを読み取るようになります。一枚の能面から私たちが様々な感情を掬い取るように。私たちの視線は一点にとどまることなく、無数の山本のかたちを追います。数々の地獄は、山本たちが躍動する巨大なテーマパークのようでもあり、いつしかそこに痛快ささえ感じている自分に気づくかもしれません。


山本は目標とする理想の絵画を「1コマ絵画」と呼んでいます。それは数時間の映画、数冊分の漫画がつくり出すドラマを、1コマの絵で表現する絵画のことです。これまで山本は特に漫画に大きな影響を受け、また憧れてきました。山本は漫画の構成要素に「物語」、「動き」、「キャラクター」の三つを挙げます。山本は自作におけるほぼ唯一のキャラクターである自分自身を、慎重に選んだシチュエーションに配します。そして自作の構成要素の中で山本が最も重要視するのが「動き」です。漫画に限らず作品の印象、魅力に大きく関わり、観客の視線を誘導する心地よいリズムとなる「動き」。山本はそれを1枚の絵で表現すべく、綿密な構図に徹底してこだわり、持てる技術を駆使し、途方も無い時間をかけ、今回出来るかぎりの大画面に描き上げました。地獄とはデフォルメされた現実の姿。山本の描き出す地獄図の中に、自身の姿を探してみてはいかがでしょうか。


その他表面にとどまらず自らの内部まで描いた自画像など、充実の内容となった今展。ぜひともご高覧ください。