O JUN × 棚田康司 「YOU or IT」(TOKYO)
2005年10月01日(土) - 10月22日(土)
10月1日よりミヅマ・アクションにてOJUNと棚田康司 による初の2人展「YOU or IT」を開催いたします。本展では、絵画制作を活動の中心とするOJUNが、紙に岩絵具と顔料を使い、作品の特徴でもあるガラスと鉄額に縁取られた「少女」像を、彫刻制作を活動の中心とする棚田が木彫で「少年」像を制作、少年少女を対峙させ、そこに新たな空間を生み出そうという展覧会です。
O JUNはイメージで作り上げられた「もの」から意味や文脈を削ぎ落とし、ただそこに在る「もの」を描こうと試みています。私たちは事象を100%そのものとして捉えることはできず、「それ」を捉えるときは多かれ少なかれ個々の感性が含まれてしまいます。過去の経験や置かれた状況によって、事実はいかようにも変化してしまうのです。O JUNが削ぎ落とす行為は「単純化」ではなく、埋もれている素形を透視する行為でもあります。何層にも重なった世界を見ている私たちにとって、ものの素形を捉えることは非常に困難ですが、そんな私たちの目をO JUNの作品浄化されさせることでしょう。
一方の棚田は、ここ最近制作している「少女像・少年像」のシリーズの中から新しい「少年像」を描き出そうとしています。彼が今回この作品にはモデルがいます。それはーー。
昨年秋、ロシア、北オセチア共和国において多数の死者を出した学校人質事件。
1000人もの人質が押し込められ、銃と頭上にしかけられた爆弾、そして水も与えられない、誰もが死におびえていた中で、犯人グループに立ち上がり大声で抗議しその場でテロリストに銃殺された13歳の少年ハッサン・ルバエフ君。本展のための新作「立ち上がる少年」は、彼へのレクイエムであるとも棚田は言います。ここ最近制作した少年少女シリーズは、どちらかといえば受動的なものでしたが、今回は「立ち上がる」という行為を下敷きにし、子供の成長に伴って様々な感情や意志がでてくる、その成長の姿を描きます。
O JUNが今年発表した、身体に爆弾を巻きつけた14歳のテロリストの名もなき少年の図があります。意識的か無意識のうちか、棚田は新作の制作にあたりこのO JUNの作品からも何か感じ取ったのではないでしょうか。人質となった少年と、テロリストの少年―お互い立場は違えど、子供なりの、いい意味にも悪い意味にも振れてしまいそうな、やじろべえのような、諸刃のようなアンバランスさ。そして無謀だがだからこそ備わった純粋な正義感と勇気を新しい少年像から感じることができるでしょう。またO JUNも自身の娘に対する思いや棚田のつくる少女像からなにかを感じとるなど、互いに知らず知らずのうちに影響を与え受けている、このことが今回の2人展に結びついているといえます。
今回の展覧会タイトル「YOU or IT」とは、絵で、もしくは木彫で人物を表現したときに、その作品を自分や誰かと重ねあわせるのか、それともただ表現された「事物」として扱うのか、そのことを指しての「YOU(あなた=人)」もしくは「IT(それ=もの)」であり、全ては鑑賞者の姿勢にゆだねられています。
ゆっくりじわじわと体に染み込んでゆくようなOJUNの作品と、一瞬にして見る者に衝撃を与え、目を反らすことも許されないような棚田の作品。技法も作風も一見対極にあるように思われる両作家の作品ですが、どちらも内にエネルギーを封じ込めた静寂をもち、紙上の少女と彫像の少年が向かい合う姿は永遠を感じさせます。ふたりの個性が混ざり合い、化学反応を起こしたその空間をぜひご覧ください。