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指江昌克 展 「デファクトスタンダード」(TOKYO)

2009年11月28日(土) - 12月26日(土)

指江昌克は1974年金沢市に生まれ、以来金沢で制作を続けている作家です。昨年のグループ展「眼差しと好奇心 vol.4」で注目を集め、特に海外では熱狂的な人気を博しています。


 


キャンバスに油彩というありふれた技法でありながら、指江の絵画は鑑賞者の印象に強く残ります。有機的に結びついたどこか懐かしい街並みが球体を形成して浮かび、あるいは塔のような形で聳えたつ光景。誰も見たことが無いイメージでありながら、その精緻に描かれた細部には鑑賞者の記憶から大切に呼び起こされる情景が潜んでいるのです。


 


今展のタイトルである「デファクトスタンダード(de facto standard)」とは定められた規格に対し「事実上の標準」を指す経済用語です。指江の描く対象は、ある時代にデファクトスタンダードであったものですが、今日それらは現代の標準とは程遠く、さりとて博物館で展示されるほど貴重ともされていません。また一見自由に見える現代美術においてもデファクトスタンダードは存在するのではないでしょうか。その中において指江の制作技法も、あえて中央から離れた金沢で制作を続けることも、デファクトスタンダードから距離を置き世界を客観的に見つめるための真摯な姿勢として、そのまま作品に通じるものです。


 


指江の作品に多く見られる構図は軽やかに整然と並ぶ現代都市を遠景とし、近景には現代が苦汁の後に抜け出した近代が配されています。そして浮かび上がった球体。そこには私たちの世界から離れたもうひとつの引力が働いています。指江によってデファクトスタンダードの引力から浮かび上がったもうひとつの世界、時代からずれゆくものたち。近未来への不安感。それらは見えにくくはなったものの、この世界の中に確かに存在しているということを指江は描いています。


 


特徴的な形式や見立てなどのいたずらっぽい仕掛けなど、表面的にも楽しめる指江の作品ですが、現在の影から掬い上げたものへ向ける眼差しは、私たちが世界を見つめる眼差しをも変える可能性を秘めています。